<2006.7.23> 蠢くものの正体は
・・・・くもり・・・・

膨れ上がった渓谷は木々と岩を呑み込み暴力的な横顔を晒し 地の底から搾り出るような呻きが洩れる
長雨により 大方の流域は寄り付く事さえ出来なく成ってしまうが 出水に左右される事無い 幾つかの
釣場が浮かんでいた? まぁ現場で無理と成れば 小一時間車を飛ばせばどんな増水にも直ぐ収まる
渓へと転戦可能だ 此処はまず釣友が望み惹かれる隠れ谷目差す事に成った

荒れ下る谷の咆哮は段々後方へと追いやられ 何時しか木々の向こうに隠れてしまった そのルートは
よく踏み込まれ見失う事は無いだろう ダラダラと蛇行を繰り返し上へ々と導かれ その尾根を越え向こうへ
降りた場所が 隠れたその渓谷らしい 足をとられ滑ったら遥か下の谷底まで止まる場所は見当たらない
山抜けで荒れたガレ場を越すのには神経をすり減らす・・・  蒸した環境と体温上昇につれ 立ち止まり
汗を拭う回数が増えだした ”ふぅ・・”先行する 釣友の後姿を ぼ〜っと眺めていたら  ん?何か変だぞ
景色が歪んで見えないか? いゃ道が動いているんだ? はっ!この山塊についてのある会話を思い出した
”山蛭が居るんだよねぇ” 慌ての足元チェックは驚愕の事態を認識させた 両脚に貼り付き蠢く夥しい数の
蛭が・・・・・・・  数え切れない 手にした枝で取り除こうとするが これまたしつこくしぶとい その間にも
別の蛭が ゾロゾロ這い上がってくる 思わず素手で毟り出したが その手に今度は貼り付いてきやがる
足元に置いた枝にさえ数匹の奴等が取り付き 此方を窺うようにユラユラと頭を擡げる  え〜っ!辺りを
見回すと いるはいる一面の蛭の海だ 落葉の上で立ち上がり此方を窺う奴に ミミズ程のサイズが大きな
歩幅で(歩幅と言うのか?) 這い寄って来やがる その都度一面の落ち葉がガサゴソざわめく 此れは
確実に意識を持って我々へと向って居る なんと云う光景だ 今まで此れ程の場面に出会ったことは無い
”戻ろうかぁ” 案内役の釣友が気弱な提案 此処を攻めんと数年思い描いてた筈 迷いを振り払い続行とし
蛭の巣窟へと突入した 其れからが大変で 10〜20m行く度足元の確認 10匹前後の蛭を払い落とし前進
又止まり払う その繰り返しの要する時間 どちらが長いか判らなく成って来た.。  なんとか乗り越しに出た
日当たりの良い其処は蛭の姿も見えない お互いに全身を念入りにチェックすると  其処からは下りに成る
谷方向へと降り出すと 又も蛭蛭蛭 思わず脚は早まり終いには駆け出していた 谷との出会いでは勢い良く
流水に跳び込んでしまう 流石に流れの中までは追ってこない 装備を解いて潜り込んだ奴らの駆除に掛かる
おおおおっ!(絶句)シューズの紐穴 スパッツの裏 死角という死角にびっしり隠れてやがる 片っ端から奴等
摘み出し水責めの刑に処す 

少々気を削がれてしまったが釣りなのだった この谷も増水は免れず 平水に比べ倍はある様で 段々の
落ち込みは 押しの強い流水に消え泡立つている 釣り難そうだ?  此処に来る事を願っていた釣友が
出会いの落ち込みで竿を振ると ”待ってました!”とばかり飛び出すアマゴ 丸みを帯びたスタイルに
明瞭で大きめなパーマーク ぬるっと握った手に滑りが残る 久しく出遭う事も無かった天然の谷アマゴだ
其の位地で上下と別れ釣り始めたが 平水なら楽しい落ち込みの連続も 今回攻めるポイントが限られてくる
幾等も行かず 谷が右折し其の先で割と高い滝となる 其の下段で幾つかのアマゴを掛けては あれぇ?
竿を持つ手がヌルリとしてる事に気付いた 振り返ると夥しい出血まっかっか・・ 何処かで切ったか もぅ。。
念入りに傷口を調べてみると 人差し指と中指の股に黒い球が?? 擦ってみるとコロリと落ちてしまった
あ!蛭の奴め 何時の間に? 出血は中々収まらない 左手の手袋内を調べると 其処にも居た! なんと
油断ならぬ奴等 摘み出し流れに放り投げ呆れ返る もういぃ魚は見たし 此処まで来た目的は充分果たした
滝の壷を攻める事無く渓を降り出し 別れた地点の流水に囲まれた岩の上で横に成る しかし釣友が帰るまで
どうしても周囲に蠢く蛭が気になり眠れない  小一時間もすると 大物を掛け竿を折られ釣友は戻って来た
少し心配してたが 何事も無く良かった 帰還の途に しかしあの蛭の巣窟を駆け抜けないと 人間社会へと
戻れないのだ 第一歩に勇気が要った ”さぁ行こうか”自ら叱咤するよう気合を入れ駆け出していく。 


(関連画像は後日番外編にて)